KAIDAN
雨上がりの廃屋に残る、消えた絵の秘密

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📖 創作怪談:この物語はフィクションです。実在の人物・団体・場所・事件とは関係ありません。
六月のある夕暮れ、僕は雨上がりの河辺を歩いていた。いつもと違う道を選んだのは、古い廃屋が気になったからだ。近所では昔から“忘れ家”と呼ばれ、立ち入る者はほとんどいない。
廃屋の扉は半開きで、内部からは湿った木と朽ちた紙の匂いが漂っていた。靴音を忍ばせ中に入ると、埃っぽい空気の中で壁にかかった一枚の絵が目に入った。少女の絵だった。赤いリボンを結んだ髪、恐らくは微笑んでいる。
不思議な暖かさを感じて近寄ると、額の隅に小さなシミが見えた。古い染みかと思い触れようとすると、背後で何かがかすかに動いた気がして振り返った。しかしそこには誰もいなかった。
しばらく絵を見つめていると、その美しい少女の顔がゆっくりと変わっていくのがわかった。見る間に表情が曇り、穏やかな笑みは消え、やがて何もない壁の一部に溶け込んだように見えたのだ。
息を詰め、心拍が早まるのを感じながら部屋を出ようとした時、足元で小さな紙切れに触れた。薄汚れたメモには、鉛筆でこう書かれていた。「忘れないで、ここにいた私を」
その晩、家に帰ってもあの絵のことが頭から離れなかった。確かにあの廃屋には少女がいた。しかしそれは、ずっと昔の誰かの記憶で、時を超えて僕に託されたものだったのかもしれない。
翌日、廃屋を再び訪ねたが、あの絵はすでに跡形もなく消えていた。壁に残るのはただの剥がれた壁紙だけ。誰かが持ち去ったのかもしれないし、最初からなかったのかもしれなかった。
だが僕は確かに見た。雨上がりの廃屋で揺れた、少女の消えない微笑みを。
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